概 要背景
東北大学発の「日本学」の誕生
文学部・文学研究科では、法文学部発足(1922年)以来、『三太郎の日記』『世界文化と日本文化』『日本の文化的責任』といった著作がある阿部次郎をはじめ、多くの著名な研究者によって、広く世界文化と比較しながら日本文化の特質を明らかにする努力が続けられ、昭和37(1962)年には文学部附属日本文化研究施設が創設されました。同施設は、世界の中から日本文化をとらえ返す方法とその意義について、多面的な研究活動を行ってきた歴史を有し、「日本学」の前身ともいえる施設です。そこでは、ドナルド・キーン氏(本学の名誉博士第1号、コロンビア大学名誉教授、平成14(2002)年文化功労者、平成20(2008)年文化勲章受章)をはじめ海外からも研究者が訪れる国際的な環境が備えられていました。
同施設は、教養部の廃止、文学部の拡充、大学院重点化等の大学全体にわたる組織の大幅改編に伴い、平成8年(1996年)に東北アジア研究センターへ発展的に解消されました。しかしその後も、法学研究科のGCOEプログラム「グローバル時代の男女共同参画と多文化共生」や本日本学国際共同大学院で枢要な役割を担う文学研究科の佐藤嘉倫教授をリーダーとする21世紀COEならびにGCOEプログラム「社会階層と不平等教育研究拠点の世界的展開」によって現代日本の諸問題が学際的に研究され、その成果は国際的に評価されています。法文学部発足以来のこの伝統を背景として、この度、他大学には見られない構想のもと、文系全部局が一体となり、研究科、研究センター、機構などを横断するかたちで、「日本学」の理念を共有する教員を結集して国際共同大学院プログラムを推進していくことにしました。
東北大学でのこの新しい「日本学」が国際的に認知されるようになったのは、2015年10月29日、30日の両日、フィレンツェ大学を会場に開催された国際シンポジウム「学びの作法:対象としてのニッポン、方法としてのニッポン」(フィレンツェ大学との共同開催)においてです。シンポジウムには、本学を含め9カ国から16大学が参加して、4部門32本の研究発表が行われました。この参加大学との間で学生交流・教員交流・学術交流を目的とする国際学術リーグ「支倉リーグ」が締結されました。
従来は一対一の大学間の協定であったり、複数の大学間の交流であったりという線的なものでしたが、本リーグの特徴は面的なネットワークを重視する点に際立った特徴があります。「支倉リーグ」については、事前に全大学をまわり説明を行ってきましたが、参加16大学は人的・学術的ネットワークとしての相乗効果とその可能性に期待を表明していました。「支倉リーグ」の参加大学が16大学(結成当時)に達し、そのすべてが本シンポジウムにスピーカーを派遣したことは、東北大学が提唱する「日本学」への期待の証ということができます。
フィレンツェのシンポジウムを展開する形で2017年2月13日、14日の両日、今度は仙台で「支倉リーグ」加盟大学からスピーカーを招き、“Knowledge and Arts on the Move: Transformation of the Self-Aware Image Through East-West Encounters”と題する国際シンポジウムを開催しました。「知のフォーラム」と共催したこのシンポジウムは3つのセクションからなっていましたが、その中でもハイライトとなったのが、The Great Tohoku Earthquake, Tsunami and Nuclear Disaster です。東日本大震災には復興という緊急に対処すべき課題があることはもとより、それに付随する多様な問題が議論されないまま残されていることが明らかになってきました。そこには社会学、歴史学、宗教学、思想、芸術・芸能史、文学、法律、経済などの分野を動員して取り組まねばならない現代の課題といえるものが山積しています。シンポジウムを受けて、2018年3月12日、ヘント大学において“3.11: Disaster and Trauma in Experience, Understanding, and Imagination”というシンポジウムを開催する運びとなりました。東北大学の足元で起こった災害をどのようにとらえ、そこに埋めこまれた未来へのメッセージをどう受けとめるかは、日本学の重い課題です。
フィレンツェと仙台のシンポジウムは、それぞれ報告書の形で一書にまとめられ、イタリアのミラノにある出版社Mimesis社からHasekura League Intercultural Studies Editionsとして刊行され、国際的に注目されています。
以上の背景と実績を受けて、本プログラムでは、海外の提携大学のスタッフと共同したカリキュラムを組み立て、現代の課題に取り組むことのできる国際感覚を備えたリーダーを養成すべく、他大学(日本ばかりでなく欧米も含めて)には見られない新しい「日本学」を展開していきます。こうした伝統と実績を踏まえ、「日本学」という領域から、東北大学が国際社会に対して、その責任を果たすところに本プログラムの大きな意義があります。